いよいよ週末に迫ってきましたニックの来日公演。ここでホークス脱退後のニックの諸作品を振りかえり、その足跡と功績を再認識し、ギグに備えたいと思います。
今回のステージでは、おそらく「宇宙の祭典」収録曲が中心になると思いますが、ニックのスタジオ制作の諸作品は基本的に新規のオリジナルです。
個人的にはオリジナル作品の出来もよいと思うので、もっと注目&評価されるべきかと。しかし聴衆はホークスのニックを期待してしまうので、ステージではホークスナンバーオンパレードになり、アルバムもそのステージを収録したものが注目されがちです。
各作品の再評価の期待を込めつつ、ニックの活動と諸作品を俯瞰します。
ホークスのASTOUNDING SOUNDS, AMAZING MUSIC(76)リリース後のツアーが一段落した際、メンバー間のゴタゴタでニックはアラン・パウエルと同時にホークスを脱退。人間関係に嫌気がさしたとか、ドラッグで調子悪かったなどと本人は言ってます。アランとはその後も時折活動を共にすることになります。
NIK TURNER’S SPHYNX / XINTODAY (78)

1978年カリズマレーベルからリリースされた1stソロアルバム。
古代エジプトの神々やピラミッドなどの遺跡の神秘を探るコンセプトで制作され「死者の書」を題材にオシリス神のストーリーをテーマにしています。フルートの演奏はギザの大ピラミッドの王の間にて収録された素材を使用。
のちにその経緯は明らかになりますが、ホークス脱退後、知人の誘いでエジプトにバカンスに訪れたニック。夜、ピラミッドの頂上に立ちフルートを吹いたその時に、滅多に降らない雨が降ってきたという神秘的な体験が創作のモチベーションになったそうです。王の間でのフルート録音は、現地のガイドにお金握らせて3時間ほど他の観光客を遮断して行ったそうです。

プロデュースはゴングのスティーヴ・ヒレッジでギターもプレイ、その他ゴング勢としてミケット・ジローディ(Syn/Vo)、ティム・ブレイク(Syn)、マイク・ハウレット(B)、アンソニー・フィリップスとの共演でも知られるハリー・ウイリアムソン(Pf/Gt)が参加。多彩なパーカッション陣に BRAND X のモーリス・パート、ホークス関連ではアラン・パウエルがコンガで参加。
ホークスでの喧騒と宇宙的ノイズサウンドとは異なり、全体にアコースティックな音の感触。シンセもかなり使われているのですが、フルートの幽幻な響きや土着的なパーカッションなどの繊細な音の響きを大切にしたヒレッジのプロダクションが、安易な電子音の洪水にならず、控えめながら奥行きのある音世界が構築されています。
カバーアートはバーニー・バブルスが担当し、ブックレットが付属していました。
国内盤は日本フォノグラムからリリース、横尾忠則の紹介文が帯やライナーに、阿木譲のライナーなど、当時のSFやシンセミュージックのブームにのせようと力を入れている感じです。
このアルバムはなかなかCD化されなかったので、93年にニックはLAのバンド PRESSUREHED と再録を行い、CLEOPATRA から SPHYNX というタイトルでリリースされました(後述)。


その後、本アルバムのCD版はニックの自主制作に近い形で97年にリリースされ、その後2007年に Esoteric Recordings の前身 Eclectic Discs からメジャーリリース、その国内盤は ディスクユニオンさん の Arcangelo レーベルから発売されました。
このアルバムをリリース後、NIK TURNER’S SPHYNX としてギグやフェスなどで演奏を行っていましたが、その頃の様子は2000年にリリースされた以下のCDで断片的ではありますが垣間聴くことができます。

NIK TURNER OF HAWKWIND / LIVE AT DEEPLEY VALE FREE FESTIVAL (00)
78年にヒレッジや HERE AND NOW などと参加した DEEPLY VALE FREE FESTIVAL での演奏やその他フェスなどの演奏が収められています。反復するリズムを演奏するロックバンドをバックにフルートやサックスを演奏、ジャムセッションのような感じです。サウンドボードからのテイクですがモノラルです。
またこの頃、THE POLICE の前身バンド STRONTIUM 90 の関連で、GONGのM.ハウレット、H.ウイリアムソンの企画した反核ソング Nuclear Waste 制作のためスティング、ヒレッジなどと FAST BREEDER & THE RADIO ACTORS に参加。スティングのボーカル曲でサックスを吹いています、
INNER CITY UNIT
80年に入ると、ニック自らのバンド SPHYNX をパンクロックバンド INNER CITY UNIT に変貌させます。T−REXにいたスティーヴ・ペレグリン・トゥックのバンド Steve Took’s Horns が解散したところ、そのメンバーに声をかけ結成。トレヴ・トムス(Gt)、デッド・フレッド(key)などのメンバーとともにアグレッシブなポストパンクを演奏。1stアルバム PASS OUT を80年にリリース。

S.トゥックはICUのギグに客演していましたが同年ドラッグで若くして逝去。アルバム収録の Watching The Grass Grow はその後復帰するホークスでも取り上げる曲、その他 Master Of The Universe などのホークス曲もカバーしています。
翌年2ndアルバム The Maximum Effect を発表。同年12月にニックがホークスのステージに客演、82年中頃からは完全復帰、ICUと並行して活動。


ICUはロバート・カルバートとの活動も行なっており、バーニー・バブルスのプロジェクトIMPERIAL POMPADOURS でアルバムを残しています。いずれのアルバムも先鋭的でアグレッシブなもので、パンクやガレージのルーツとしての面目躍如。
83年にはICUのデッド・フレッド(Key)もホークスに参加することになります。84年には3rdアルバム Punkadelic をホークスの当時のリリース元 FLICKNIFE レーベルに移し発売。84年にはフレッドがホークスを抜け、85年にニックも抜けます。その後ICUはギタリストをスティーヴ・ポンドに変更し、New Anatomy (85)、The President’s Tapes (85)とリリース。



なお、D.フレッドは、2012年にまさかの本家復帰、来日公演に参加していましたね。
様々なミュージシャンとのコラボや自身のジャズバンド NIK TURNER’S FANTASTIC ALL STARS などを率いてのライブ活動を続けます。
92年の英国のフォーク&カントリーSSW、ナイジェル・マズリン・ジョーンズのステージでフルート&サックス演奏、ドラムはVDGGのガイ・エバンスというチームのテイクが後年リリースされています。
PINK FAIRIES とは70年のワイト島をはじめとしてよくジャムを行ってきたので、


トゥインクとの親交は続いており、93年のフェスには PINKWIND として、トゥインク(Drs)、トレヴ・トムス(Gt)らとホークスナンバーや自身のソロ曲を演奏。95年に TWINK RECORDS より PINKWIND – FESTIVAL OF THE SUN としてリリース。
NIK TURNER / SPHYNX (93)
93年にはLAの新興レーベル CLEOPATRA から、1stソロアルバム XINTODAY のリメイク版を発表。参加しているプレイヤーは同レーベルの PRESSUREHED の面々。ゴシック系やインダストリアル系を得意としている同レーベルのバンドらしく、パワフルなリズム、エッジの立ったギターやシンセの音色で、オリジナルアルバムとは曲順も変わり、ほぼ完全な新作というような内容。アルバム最後にオリジナルアルバムの元になったギザでのフルート演奏のテイクが収められています。

この作品の勢いに乗るように、新作 PROPHETS OF TIME を同年年末にかけて制作。前作のメンバーに加え、元ホークスのサイモン・ハウス(Vn)、同じ CLEOPATRA から作品をリリースしてた PSYCHIC TV のジェネシス・P・オリッジ(Vo/Syn)、CHROME のヘリオス・クリード(Gt)などが参加。
さらに翌94年1月から2月にかけて、全米40ヵ所以上にわたる SPACE RITUAL ツアーが実施されました。アルバムのメンバーに加え、デル・デットマー(VCS3)、アラン・パウエル(Perc)らの元ホークスメンバーが参加、ライブレコーディングされます。その名の通り「宇宙の祭典」を再現するような選曲でオーディエンスは熱狂し評判が良く、本家と混同する聴衆も多かったようです。

NIK TURNER / PROPHETS OF TIME (94)
そしてアルバム PROPHETS OF TIME が CLEOPATRA から発表。前作のテイストを引きながら、より力強い作品となりました。
NIK TURNER / SPACE RITUAL 1994 LIVE (95)
95年には前年の SPACE RITUAL ツアーのライブ盤 NIK TURNER – SPACE RITUAL がCD2枚組でリリース。日本ではキャプテントリップレコードが販売。アメリカでのツアーは95年も実施、ここでもライブレコーディングされ、翌96年 PAST OR FUTURE? としてアルバムリリースされることになります。


前作とかぶる曲はわずかで、「絶体絶命」収録曲や Kadu Flyer などの曲が収められ、ファンには嬉しい内容でした。そのリリース直後に日本公演も実現。
この頃、CHERRY RED RECORDS の企画アルバム A SAUCERFUL OF PINK というピンクのトリビュートアルバムに参加し「ユージン、斧に気をつけろ」をカバー。

95年4月には前述の PINKWIND の変名、THE HAWK FAIRIES としてギグ、これもレコーディングされて96年に THE HAWK FAIRIES – PURPLE HAZE としてリリース、キャプテントリップより国内盤も販売されました。前述の故スティーヴ・トゥックとP.フェアリーズに在籍したギタリスト、ミック・ウエイン(94年に逝去)に捧げられています。
その後もLAの周辺バンド、北欧のバンドなどへの客演が続きます。
フィンランドの DARK SUN はホークスのカバーアルバムをリリースしていますが、ニックが客演しています。
ANUBIAN LIGHTS
ニックは旧ホークスメンとの活動でホークスナンバーを演奏するようになったので、ソロアルバム SPHYNX のアラビアン路線を推し進めていくプロジェクト ANUBIAN LIGHTS を PRESSUREHED のメンバーと始動させます。

1stアルバムは95年にリリース、アルバム SPHYNX の流れをくむ作風でS.ハウス、D.デットマーも参加。
その後2001年頃までコンスタントにアルバムを発表しました。
ホークスの旧メンバーとのギグを重ね2000年には、H.L.ラントン(Gt)、T.オリス(Drs)、T.クランブル(B)、ロイド・ジョージ(Syn)というメンバーで 2001 A SPACE ROCK ODYSSEY というバンド名でギグを行いました。その後、ラントンが抜け、ミック・スラットリー(Gt)が参加。このような極初期のメンバーとの邂逅などがあり、2000年のリユニオンギグでのメンバー集めでは大変な功労者だったと思われます。リユニオンの実施の裏でギャラの支払いなどのゴタゴタがあり、旧メンバーの大半はニックとの活動を選び、ニックは NIK TURNER”S HAWKWIND と名乗ったりしていましたが、2つのホークウインドの存在はファンが混乱するということで、ブロック側が訴訟し勝訴、その後ニックは SPACE RITUAL をバンド名にすることになります。
2003年にはデイヴ・アンダーソン(B/Gt/Vo)が参加、オリスの息子サム・オリス(Drs)も帯同。

NIK TURNER’S KUBANNO KICKASSO (03)
2003年にニックが長年活動していたビッグジャズバンド FANTASTIC ALL STARS のCDがリリースされました。バンドは8名に及ぶ編成で大まじめなラテンジャズを展開。ニックの別の側面が伺いしれるアルバム。今回の来日メンバーとなるであろうベーシスト、ゲイリー・スマートが在籍しています。
SPACE RITUAL / OTHER WORLD (07)
ニックと初期メンバー同窓会バンドは、その名も SPACE RITUAL として、ギグテイクを集めた作品をマイナーリリースしていましたが、2007年に ESOTERIC RECORDINGS よりメジャーアルバムリリース。

D.アンダーソンのプロデュース。収録曲はほぼ新曲、オリジナル曲で勝負しており、全体に落ち着いた大人のスペースロックという感じで、アンダーソンのプロダクションも良く完成度の高い作品です。
その後、アンダーソンが体調不良で離脱。
2011年には、バーニー・バブルス・メモリアル・コンサートと銘打ったギグが実施され、多くの旧メンバーが参加。。

エイドリアン・ショウ、ハーヴィー・ベインブリッジ、スティーヴ・スインデルスなどの HAWKLORDS組、アラン・デイヴィ、ダニー・トンプソンの80年代中期組、ロン・トゥリー、ジェリー・リチャーズの90年代後期組が参加。当時のマネージャー、ダグ・スミス、初期の名ドラマー、サイモン・キングが駆けつけました。キングはホークス脱退度、業界から足を洗っており、実に30年ぶりに再会したことになります。
ギグの模様はDVDやLPにてリリースされます。このメンバー構成は感動ものです。
この時に集まったメンバーを中心に HAWKLORDS のバンド名を復活させ活動を始めます。ニックは参加していませんが、アルバムのリリースを続けています。現在、旧メンバーは、H.ベインブリッジ、J.リチャーズ、ロンで、他は新しいメンバーでの活動。

NIK TURNER / SPACE GYPSY (13)
ニックの久々のソロアルバムが長年契約している CLEOPATRA から2013年にリリース。レギュラーメンバーに旧ホークスメンは起用せず、参加メンバーは UK-SUBS のニッキー・ギャラット(Gt)、ドイツの DIE KRUPPS のユルゲン・エングラー(Key)などがメジャーどころで、その他は無名のメンバー。S.ヒレッジが1曲、S.ハウスが3曲ゲスト参加。スペースロックの路線を踏襲、反復するハードなギターリフと電子音の渦巻くサウンドにサックス、フルート、ニックのボーカルという構成。シンセの音が全体に厚く流れていて、流麗で心地良い印象もあります。
アルバムに先行してシングル Fallen Angel STS-51-L がリリース。公式ビデオは以下。
NIK TURNER / SPACE FUSION ODYSSEY (15)
現時点のソロ最新作、今作ではヒレッジ(Gt)が多くの曲に参加し、豪華ゲストが多数参加。前作とは方向性が変わり、タイトルに象徴されるようにフュージョン的な楽曲になっています。ホークスのステージに客演していた、ジョン・エサリッジ(Gt)のプレイもこういう楽曲ではとてもフィットしています。前作から参加のJ.エングラー(Syn)はほぼ全曲に参加していますが、その他のメンバーは流動的で、元メガデスの敏腕ギタリスト、クリス・ポーランドとその現バンドOHMのベース、ロベルティーノ・パグリアリ、ドラマーのデヴィッド・イーグルが基本ユニットとなるため、かつてないほどテクニカルな楽曲。その他、元 THE MAHAVISHNU ORCHESTRA のビリー・コブハム(Drs)とジェリー・グッドマン(Vn)、元 THE DOORS のロビー・クリーガー(Gt)、元 AMON DUUL II のジョン・ヴァインツィアル(Gt)、元 YES のビリー・シャーウッド(Gt/Drs/Key)、リック・ウエイクマン(Key)、先日亡くなったジリ・スマイス(Vo)など。それぞれフルに参加してるのではなく1、2曲程度の参加。ニックによると、これらのメンバーはプロダクション側で人選や交渉をやってお膳立てされていたとのこと。全体にテクニカルな演奏で、個性的なミュージシャンを起用しつつ、スペーシーなムードで統一されています。

また今年の動向として、PURPLE PYRAMID から FLAME TREE FEATURING NIK TURNER (16) をリリース。Sax/Gt/B/Drsの4ピースバンドで、こちらは即興中心のフリージャズを演奏。
客演では元PILのベーシスト、ジャー・ウォブル自身のバンド JAH WOBBLE’S INVADERS OF THE HEART の新作 EVERYTHING IS NO THING (16) に参加。フルートを吹いています。

ライブ活動は、音楽の内容にあわせて以下の4つのユニットで行うという、多忙な活動を続けてます。
SPACE RITUAL NORTH AMERICA CREW
LA中心に、スペースロック系USツアーを行う際は USバンド HEDERSLEBEN (UK-SUBS のN.ギャラットが在籍)がバックを務めます。
Nik Turner’s Brand New Space Ritual
UK、欧州でのスペースロックは、SPACE RITUAL で。 (しかし現在、オリス。スラットリー、クランブルが抜けており、旧ホークスメンが不在。スティーヴ・ジョーンズ(G・ピストルズのあの方ではありません)、ゲイリー・スマート(B・前述のNIK TURNER’S KUBANNO KICKASSOのメンバー)、クリス・パードン(Key)、チャーリー・スカー(Dr)、Msエンジェル(ダンス)。
今回の来日はこのユニットになると思われますが、ホークスメンは帯同するのか、まだわかりません。
INNER CITY UNIT
パンクはおなじみICU。ギターはS.ポンド、ドラムにはディノ・フェラーリ。
FLAME TREE
ジャズは前述のアルバムをリリースした FLAME TREE という4ピースバンドで演奏。
今月はUKと日本ツアー。今月下旬から11月いっぱいは30カ所近くまわる全米ツアーの予定という、相変わらずのハードロードをこなしていくようです。
以上、ニックさんの経歴をさらっと書くことはできず、とても長々な文章になってしまいました。
ここで紹介しきれていない作品もまだあるので、ディスコグラフィは作りたいです。時間かかりそうだな。
来日メンバーは上記メンバーの可能性が高いですが、果たして、、、